Subject: 多田富雄さん「障害者の人権を踏みにじる診療報酬改訂
に対する抗議文」です。

 

「障害者の人権を踏みにじる診療報酬改訂」

 多田富雄

 

 私は脳梗塞の後遺症で、重度の右半身麻痺に言語障害、嚥下障害等で、物も満足には食べられません。
もう4年になりますが、リハビリを続けたおかげで、何とか左手だけでパソコンを打ち、人間らしい文筆生活を送っています。
 ところが、この3月末、突然医師から今回の診療報酬改訂で、一部の疾患を除いて障害者のリハビリは発症後180日を上限として、実施できなくなったと宣告されました。私は当然リハビリを受けることが出来ない事になります。
 急性期の患者のように目だった回復は望めませんが、リハビリを続けたおかげで、何とか苦しいながらも、日常生活を続けることが出来ています。もしリハビリをやめたら、すぐに動けなくなってしまいます。(廃用症候群?)
 昨年別な病気で3週間ほどリハビリを休んだら、以前は50メートルは歩けたのに、立ち上がることすら難しくなったのです。身体機能はリハビリをちょっと怠ると、瞬く間に低下する事をいまさらながら思い知らされました。リハビリを休んでいるうちに、右腕は硬縮して延ばせなくなりました。この時期のリハビリが大切な事を思い知りました。 
 これ以上運動機能が低下すれば、寝たきり老人になるほかはありません。その先はお定まりの、衰弱死です。ぞっとしました。私はリハビリを早期に再開したので、今も少しずつ運動機能は回復しています。今日はじめて、40メートルくらい歩けました。
 ところが、今回の改正で、180日を過ぎたものは、一律にリハビリが受けられなくなるというのです。私と同じように、180日を過ぎた慢性期、維持期の患者でも、麻痺した体に鞭打ってリハビリに精を出している患者は少なくないのです。それ以上機能が低下しないよう、不自由な体に鞭打って、苦しい訓練に汗を流しているのです。
 そういう人がリハビリを拒否されたら、すぐに廃人になり死を待つことになることは、火を見るより明らかです。今回の改正は、「障害が180日で回復しなかったら死ね」というのも同じ事です。ある都立病院では、約8割の患者がリハビリを受けられなくなると聞きました。リハビリ外来そのものが崩壊の危機にあるのです。
 私はその病院で言語療法を受けている。こちらはもっと深刻です。構音障害が、運動麻痺より回復が遅いことは良く知られてたことです。ところが今回の改正には構音障害という言葉さえ出てこない。失語症と並んで難しいリハビリは、全く無視されているのです。構音障害の患者が、180日で打ち切られれば、一生話せなくなってしまいます。口蓋裂の子供などにはもっと残酷です。この子らを半年で放り出すのは、一生しゃべるなというようなものです。
 身体機能維持のためのリハビリは、寝たきり老人を防ぎ、医療費を抑制するのに役立っています。一種の予防医学にもなっています。医療費の抑制を目的とするなら、今度の改定は逆行した措置です。
 障害者の権利を削ってまで、医療費を稼ぐと言うなら、障害者のためのスペースを商業施設に流用した東横インよりも悪質です。
 何よりも、リハビリに対する考え方が間違っています。リハビリは単なる機能回復ではないのです。社会復帰を含めた、人間の尊厳の回復です。話すことも直立二足歩行も基本的人権です。それを奪う改正は、人間の尊厳を踏みにじることになります。そのことに気づいて欲しいと思います。
 障害を持った者の人権を無視した今回の改正によって、何人の患者が社会から脱落し、尊厳を失い、命を落とすことになるでしょう。そして一番弱い障害者に「死ね」と言わんばかりの制度を作る国が、どうして福祉国家と言えるでしょうか。

多田さんのpdfドキュメントを打ち直しました。 誤字・脱字あれば、許して下さい。)


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